NYコレもドタバタ日記2日目 “おてんばお嬢様”から黒人カルチャーまでをブルックリンで堪能する

9月8日のニューヨークは晴天。最高気温は25度。さぁ、街は穏やかな日曜日ですが、我々は今日もちょっとドタバタな1日の始まりです。

早朝いきなりドタバタなのは、「トリー バーチ(TORY BURCH)」のショーが、まさかのブルックリンだからです。“おてんばお嬢様ブランド”の「トリー バーチ」が、ブルックリンでショーなんて!これはNYコレの常連にとって、ちょっとした驚きです。

土地勘のない人に向けて、実に乱暴な説明をしますと、マンハッタンが東京の中央、千代田、港、渋谷、新宿区辺りだとしたら、ブルックリンは僕の中で世田谷区のイメージ。「トリー バーチ」の会場はブルックリン・ミュージアムでしたから、都心から砧の世田谷美術館に行く感覚でしょうか(笑)。そんなに近くないでしょう?実際、マンハッタンからは地下鉄に乗っておよそ30分という立地です。

さて、そんな場所でのコレクション。日本からのセレブは、2000年生まれのダンサー、アオイヤマダです!斬新!そして「良き」。「トリー バーチ」の“おてんば”なところを、ダークサイド気味なニュアンスで独特に表現しています。このセレブ起用は新しいし、日本っぽくて良いわ~。正直普通じゃない彼女の起用は、英断だったと思います。

コレクションは、いつも以上にリラックスムードなドレスが印象的でした。でも袖周りのギャザリングやプリーツはとても細かくて、クラス感はむしろ1年前よりアップ!!柔らかな素材で作るカッターシャツ、大きなリボン付きブラウス、そしてゴールドのメタルボタンをあしらったツイードのロングジャケットは、安心感満載でした。ケータリングのクレープをモグモグしながら、マンハッタンに戻ります。

9日のショーに先立って、デザイナーをインタビュー。フィリップ流サステイナブルのススメに感銘を受けました。詳細は、また別の記事で~。

「見て、すぐ買えるコレクション」、いわゆる“See Now, Buy Now”の「マンサー ガブリエル(MANSUR GAVRIEL)」は、プリーツを寄せたパステルカラーの巾着バッグにぴったり、もしくはワニ柄を型押ししたキッチリバッグとコントラストを描く、淡い色のモコモコニットが盛りだくさん。でも会場にはココナッツやスイカ、ランブータンなど南国のフルーツが敷き詰められ、「スタイルは冬、会場は夏」というナゾな空間に仕上がりました。ゲストは、フルーツジュースで乾杯。オシャレガールたちが、なかなかサイズのスイカ、ココナッツ、パイナップルを片手に談笑……、不思議な光景です。

お次の「ティビ(TIBI)」は、ショー会場がシアター。モデルはステージを歩き、階段を上り下りして、と文字通り舞台を所狭しと駆け巡ります。

ファーストルックは、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)による「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のファーストメンズ、2017年春夏並みのスーパーパワーショルダーのセットアップ!「こ、これは……」と、しばし衝撃にペンが止まりましたが、その後はいつもの安定感。柔らかな素材、背面を中心にちょっと誇張したボリューム感、目に優しい1トーンコーディネートが復活です。ただ“パワショル”スタイルは、ニットなどでも時々登場。あの時の「バレンシアガ」も、今季の「ダブレット(DOUBLET)」も、今回の「ティビ(TIBI)」も、まだまだ驚き以外の感情を抱けない自分がいますが、慣れる時は来るのでしょうか?

ミッドタウンからダウンタウンに移動して「シエス マルジャン(SIES MARJAN)」。柔らかな素材と、強い色の魔術師です。今シーズンは、ネイルラッカー、つまりマニキュアがインスピレーション源。トップコートを塗った後のようにピカピカのレッド、グリーン、イエローなどは、下品ギリギリの強さです。そんな色をのせるのは、パテントレザーから肉厚のシルクタフタ、ピカピカのフィルム風素材までさまざまですが、ネイルラッカーを意識してか、いずれも光沢を放ちます。

マニアックだし、正直着こなすのはカンタンじゃない。値段も決して安くない。でも独特の色彩感覚と素材使いは、大切にしたい存在です。とてもニッチなマーケットではありますが、40分待っても見たい(遅刻の常習犯であります)。遅れるとわかっていても、会場に向かう時は「間に合うかしら?」とソワソワして小走りになっちゃう。「シエス マルジャン」は、そんな期待の星なんです。

お次は、ファッション界のアクティビスト「プラバル グルン(PRABAL GURUNG)」。今年でブランド設立10周年のアニバーサリー・コレクションです。

フィリピンで生まれ、ネパールで育ち、インドやイギリス、オーストラリアを経て、移民としてアメリカに渡ったプラバルは、ドナルド・トランプ(Donald Trump)が大統領に就任して以降、ずっと声を発し続けてきました。ある時は「私たちは皆、移民」というメッセージTシャツをモデルに着せ、メキシコ国境に壁を築こうとするトランプ大統領に反旗を翻したくらいです。

そんな彼は今シーズン、今のアメリカを嘆くのではなく、理想像を描くことでトランプ大統領に警鐘を鳴らしました。アメリカンカルチャーのビューティ・ページェント、いわゆるミスコン(そもそもこれについて賛否両論あるでしょうが)に登場するようなドレスを、純白のコットンポプリン、タイダイ、スポーティなナイロンなどで描き、デニムと組み合わせます。何色にも染まる純白のコットン、さまざま色が混じり合うタイダイ、そしてアクティブウエアに使うナイロンは、いずれもアメリカのあるべき姿。そこにアメリカンなデニムを組み合わせたのです。

随所に散りばめたのは、打ち上げて以降瞬く間にさまざまに色を変える花火のモチーフ。アメリカントラッドの象徴シアサッカーにはストライプ柄をのせました。加えてミスコンの象徴、バラの花です。正直テイストミックスはミスマッチ。融合は完璧ではなく、幾らかの違和感を残している。でも、それはワザと、な気がします。人は組織に完璧に馴染む必要なんかなくって、共生しつつも「個」として生きれば良いからです。プラバルの、そんな理想を垣間見た気がします。

世界を巡業する「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」の“See Now, Buy Now”、「見て、すぐ買えるコレクション」。19-20年秋冬シーズンは、舞台にニューヨークをチョイスしました。会場は、ハーレム。黒人音楽の殿堂、アポロシアターです。今タッグを組む、黒人と白人の間に生まれた女優ゼンデイヤ(Zendaya)が選んだのかな?会場に入ると、記念のTシャツやスエットの売店がありました。

会場は、昔のアメ車が並んでいたり、上を見上げると階段の踊り場に女性がたむろしていたり、ジャズ奏者が談笑していたり、古き良き60~70年代のブラックカルチャーのムード。次々現れるコレクションも、まさにそんな感じです。千鳥格子のコートやベルベットのジャケット、水玉のブラウスなど大人っぽい雰囲気は、前回のゼンデイヤとのコラボライン同様のレトロテイスト。彼女らしいセクシネスもギュッと詰め込みました。プラスサイズも含めた黒人モデルたちが、音楽に合わせて体を揺らしたり、両手を振ったり、ご自慢のアフロをアピールしてみたり。そんな一挙手一投足のたびに歓声が上がり、本当に50~60年前のハーレムにタイムスリップしたようです。

さぁ、「トミー ヒルフィガー」のショーが終わったのは、21:15。でも今日は、まだもう一個あるのです。しかも会場は世田谷区、いやブルックリン(笑)。今いるハーレムは台東区くらいのイメージなので(笑)、この時間からニューヨークを大縦断&大横断です。

本来のスタート時刻は、21:30。どう考えても間に合わず、「パイヤー モス(PYER MOSS)」が用意してくれた車に乗り込みましたが、到着したのは22:15でした。

会場は、またもシアター。しかも、めちゃくちゃデカい箱です。これまでの「パイヤー モス」からは考えられない規模感に急成長しました。トム・フォード(Tom Ford)がCFDA(アメリカファッション協議会)のトップに就任して以降、「パイヤー モス」のデザイナー、ケルビー・ジャン・レイモンド(Kerby Jean Raymond)は、委員の1人を務めています。黒人デザイナーとして、アメリカン・ファッションをけん引する役割を託されたワケです。この急成長には、こんな事情が影響しているに違いない。注目度はメキメキ上昇か?事実、今回は日本メディアも勢ぞろいでした。

ショーは、もはや牧師のような黒人による、400年前は奴隷だった黒人に贈る決起のメッセージから始まりました。ファッションショーというよりは、教会の日曜礼拝みたいなムードです。確かに、今日は日曜か(笑)。BGMは、オール黒人の聖歌隊のような合唱団の歌でした。

洋服は、今黒人コミュニティーがけん引するストリートをベースとしながら、彼らが愛し続ける光沢素材、貧しい時代に“ハレ”の服として着用した自慢の一着を思わせるスーツやドレスも現れます。正直、日本人には難しい。でも登場するたび、そして合唱団の音楽が変わるたびに会場からは大きな歓声が沸き上がります。ゲストの3/4は、壇上の合唱団やモデルと同じ黒人。「パイヤー モス」はまさに、「黒人の、黒人による、黒人のための」でした。

盛り上がるゲストの洋服を見ると、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」や「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL)」「グッチ(GUCCI)」などもたくさん。およそ30分のショーを終えた直後の会話に聞き耳を立てると、「お腹すいたけど、この辺りだと『マクドナルド』や『KFC』しかやってないよね。移動しよっか?」なんて話していて、自分のアンコンシャス・バイアスが軽やかに裏切られます。黒人は、アメリカ社会で確実に存在感を増しています。購買力のある、次なるファッションをドライブする原動力として認識されるようになっているのです。NYコレ中盤の夜は、ハーレム、そしてブルックリンで、彼らの力を見せつけられました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です