新デザイナー起用で「J&Mデヴィッドソン」はどう変わった?

八木通商傘下の英国ブランド「J&M デヴィッドソン(J&M DAVIDSON)」が2019-20年秋冬に生まれ変わる。30年以上にわたりブランドを率いてきた創業者のジョン・デヴィッドソン(John Davidson)とモニク・デヴィッドソン(Monique Davidson)夫妻からバトンを受け継いだのは、ケイティ・ヒリヤー(Katie Hillier)新クリエイティブ・ディレクター。主力のバッグをはじめ、ウエアやシューズ、アクセサリーまでフルコレクションを手掛ける。数々の著名ブランドで象徴的なアイテムを生み出し、アクセサリーのエキスパートとして知られる彼女が語る新たな方向性とは?

「J&M デヴィッドソン」のコアバリューをどのように解釈しているか?

「J&M デヴィッドソン」は、ラグジュアリーの世界でまだ発見されていない宝石のようなブランドだと思います。この話をもらったときは、本当にワクワクしました。ブランドのコアバリューは、「エブリデー・ラグジュアリー(毎日使えるラグジュアリー)」というコンセプトに実直であること。それが、今後も「J&M デヴィッドソン」が全てのカテゴリーにおいて目指すべきものだと考えています。

その考えをどのようにコレクションに反映したか?

普段から持てること、着られることを、全ての商品のデザインプロセスはもちろん、ウエアの生地やバッグとシューズに使うレザーの選定に至るまで、とても深く考えました。機能的であるということも、われわれがデザインするうえでとても大事なポイントになっています。

「J&M デヴィッドソン」の新たなイメージをどのように作り上げているのか?

ブランドのDNAと創業者が培ってきた素晴らしい歴史を新しいデザインに注ぎ込んでいます。私が考えているのは、自分だけでデザインや物作りを進めるのではなく、さまざまなアーティストや製作に携わる人々とのユニークなチームワークを通して、「J&M デヴィッドソン」に新しい側面をもたらすこと。例えば、店内デザインは私と長年パートナーを組んでいるティナ・ヴァイア(Tina Vaia)と、ビジュアル撮影にはヒューゴ・スコット(Hugo Scott)とタッグを組みました。そして、ショールームと店舗に置くハンドメードのテーブルは、ジェフェリー・ウエスト(Jeffery West)が製作したものです。今構想を練っている新店舗では、そういった個性豊かなアーティストと作るブランドの新たなコアバリューを体感できるような空間を考えています。また、「J&M デヴィッドソン」は設立当初からアートとのかかわりが強いブランド。なので、創業者がロンドンに最初に作った店舗はアーティストたちが多く集うコミュニティーのような場所だっただろうということに思いを馳せながら、そういったチームを組んでクリエイティブ・ディレクションを進めています。

コレクション制作にあたり、イメージした人物像は?

デザインする上で最初に作るムードボードには、私が大好きでブランドのイメージに合致している人が多く登場しますが、その中でもダイアナ妃からは大きな影響を受けています。

ファーストシーズンとなる2019-20年秋冬コレクションのインスピレーション源やテーマは?

まず、顧客が新しさを感じるパーソナリティーと親しみのあるブランドらしさを融合し、これまで培ってきたディテールを取り入れることで、新しいアイコニックなアイテムを生み出すことに挑みました。イメージしているのは、シーズンごとにアップデートし続けていく「J&M デヴィッドソン」ウーマンのワードローブ。そこには、常に英国的な要素とアーティスティックな要素がミックスされています。われわれは全く新しいものを発明しようとしているわけではなく、クラシックなアイテムから常にインスピレーションを受けながら、自分のワードローブにほしいと思えるものを提案することを考えているのです。

新しいコレクションの中で、特に気に入っているアイテムは?

新たにデザインした“ベルト バッグ”と、アイコンモデルである“カーニバル”を再解釈した“フリンジ カーニバル”が気に入っています。また、ウエアでは“ジェントルマンシェイプ コート”と呼んでいるウィメンズのコート、シューズでは英国らしさを感じるバックルブーツがお気に入りです。

一般的にラグジュアリーブランドのバッグは価格が上がりつつあるが、価格帯についてはどのように考えているか?

どんな顧客に買ってもらいたいかというビジョンが、価格帯を決めるときに一番重要な点だと思っています。われわれの考える顧客は、スーパーブランドによる高価格帯の商品だけが欲しいという女性ではなく、“本当に良いもの”を知っている審美眼のある女性。そんなお客さまに対して、実際に手の届く価格帯でアイテムを提案するためにわれわれは努力を続けています。また、使用するテクニックやディテール、素材によっては他よりも高いアイテムもあるかもしれませんが、その価格である理由を理解していただくことにも取り組んでいきたいと考えています。

これまで数々のアイコニックなアイテムを手掛けているが、バッグのクリエイションにおいて最も大切にしていることは?

特徴的なデザイン、美しい仕上げ、機能性、そして、高い価値があることです。

現在は、どこを拠点にクリエイションを行っているのか?

ロンドンとニューヨークを行き来しています。ブランドにとって大切な“英国らしさ”を体現するにあたりロンドンで暮らす人間であることは常に意識していますが、たくさん世界を旅していることもグローバルに物事を考える助けになっています。

「J&M デヴィッドソン」は日本でも人気があるが、日本市場をどのように見ているか?

私は本当に日本が大好きです。日本のお客さまは細部に対する審美眼があり、品質の高さを知っています。商品の価格にかかわらず、品質がとても良いものでなければならないという考え方にも本当に敬意を抱いています。

今後注力していくカテゴリーは?

われわれはレザーグッズに力を入れていて、新しいシグネチャーバッグを毎シーズン生み出したいと考えています。また、将来的にシューズにも注力していきたいと考えていますし、アウターやニット、シャツなどにも可能性を感じています。

今後のビジョンは?

「J&M デヴィッドソン」のチームメンバーはすばらしく、このチームでブランドを未来に進めていくことをとてもうれしく思っています。先ほども答えましたが、クリエイティブなコミュニティーのようなチームを作るとともに、英国らしさとブランドならではのユーモアや遊び心を加え、ブランドイメージを高めていきたいですね。

1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。