ジーンズは地球環境への負荷が大きいプロダクトとしてやり玉に挙げられることが多い。大量の水と農薬を必要とする綿を主な原料とし、染色、加工でも大量の水を使い、水質汚染を引き起こすこともあるからだ(現在は汚水を飲み水レベルまで戻して排出する工場が主)。綿花栽培には世界で用いられる殺虫剤の25%が使われており、土壌は汚染されて食品生産に向かない。生態系は崩壊し、労働者は病に侵されているとまで言われている。
そんなデニムアイテムを主軸にしながらも、地球や人間、動物に配慮した超ヘルシー経営を実践するのが、2001年創業のスウェーデン発「ヌーディージーンズ(NUDIE JEANS)」だ。原料生産からプロダクトが廃棄されるまで、いかに環境に配慮できるかに徹底的に取り組んでいる。例えば、原料にはオーガニックコットンを用い、製造工程でも極力薬品を用いず、再生可能エネルギーを用いた工場で生産する。サプライヤーの労働者にも生活賃金(最低賃金とは異なり、年間を通じて受け取れる適正な賃金)の支払いを目指し取り組んでいる。
一度購入したジーンズは何度でも無料で修理する。修理ができなくなった、あるいはサイズが合わなくなるなど必要がなくなったジーンズは新しい一着のための20%オフクーポンと引き換える。引き取った古着は、洗浄して手を加えたうえでリユースデニムとして販売され、リユースが難しいものは、生地が再利用されてキャップやバックパックなどに生まれ変わる。同ブランドは、こうした1つのプロダクトが循環する仕組みを作った。
創業者の一人パレ・ステンバーグ(Palle Stenberg)最高経営責任者(CEO)はブランド設立の理由について「2つある。1つ目は働く人全員がハッピーな会社にしたいということ。寝る前に『ヌーディージーンズ』で働いていてよかったなと思われるような会社にね。もう1つは、自分たち(創業メンバーはマリア・エリクソン(Maria Erixon)=クリエイティブ・ディレクターとジョーキム・レヴィン(Joakim Levin)会長で全員が創業前からデニム産業に関わっていた)が好きなデニムを作りたかったこと。キャットウオークに出てくるようなファッションフォワードなものではなくてね」と語る。
ヌーディージーンズの2017年の売上高は4700万ユーロ(約60億6300万円)。全体の80%をデニムを占めるが、その原料はすべてオーガニックコットンだ。今でこそ手に入りやすくなったオーガニックコットンも「創業当時は手に入らなくて本当に困った。僕たちは責任を持ってモノ作りをしたいと考えた。ファッション産業はオイル産業に次いで環境負荷が大きい。地球では毎年10億本のデニムが生産されていて、たくさんの農薬が大地に注がれていて土壌へのダメージが非常に大きい。履く人にとっても薬品が使われているのはよくないでしょう?一方で、オーガニックコットンが手に入らないから製品にできる量が限られていた。しかし僕たちは諦めず、04年頃に生産者を本社に招き、オーガニック100%で作れないかと伝えた。半分が『やってみる』、半分が『無理』という結論だった。徐々にオーガニックコットンが市場に広がり、12年には当社のすべてのコットンをオーガニックに替えることができた。つまり、消費者もオーガニックコットンの商品が欲しいと思ったら、今はとても買いやすくなったということ」。原料生産から消費者の手に渡るまでの環境負荷を数値化したとき、その66%を占めるのが原材料の生産と素材の加工だと言われている。つまり、原材料の生産こそが肝なのだ。とはいえ、国際的NPOのテキスタイル・エクスチェンジ(Textile Exchange)によると、2015年度(15年8月1日~16年7月31日)に世界で生産された2090万tもの綿花のうち、オーガニックコットンの割合は約0.51%、10万7980tにすぎないという。
「僕たちは他のブランドを刺激したいんだ。車業界でいう『テスラ(TESLA)』のようにね。楽しみながら責任を持ち、利益を生み出す仕組みを作ることこそが重要だよね。どの業界でもいい商品を作るのは当たり前で、プラスアルファが求められる。そのプラスアルファの情報は自分たちから発信すべきなんだ。だから僕たちは、小さいことから、始められることから伝えている。消費者の方にお願いしたいのは、オーガニック製品を選ぶこと。オーガニックを選べば世界は簡単に変えられるから」。